壮大な心の旅

 読書の秋です。それぞれの教育現場でも、工夫を凝らした読書活動が行われていることでしょう。私が小学校高学年の担任をしていた頃、1時間目の授業が始まる前の10分間に、「朝の自由読書」の時間を設けていました。

 この活動は、子どもたちが読書に慣れ親しむきっかけになればとの思いで始めました。自分で選んだ本であれば、どんな本でもよく、「毎朝10分間、自由に本を読む」というものです。ここでいう「自由」とは、「読まなければ」という義務感から離れ、自分のペースで気楽に読書を楽しむということです。とはいえ、子どもたちにとってはどんな本を、そしてどのように読めばよいのか、戸惑うこともあると思いました。そこで、次の5点を伝えました。

① 最初から最後まで読まなくてもいい。
② 分からないところがあっても気にしない。
③ 途中で別の本に移ってもいい。
④ 読書量や読む速さを人と比べない。
⑤ 物語や歴史書、図鑑、雑誌、マンガなど、読みたいと思う本を選んでいい。

 開始のチャイムが鳴ると、子どもたちは一斉に、そして静かに本を読み始めました。清々しい朝の教室には、ページをめくる音だけが響いていました。この光景を嬉しく思いながら、私も本を読んでいました。時折、子どもたちがどんな本を読んでいるのかを知るために、机の間を歩いてみました。持ってきた本は、家にあったものや図書館で見つけたもの、友だちに勧められたものなどさまざまで、物語や歴史の本、雑誌、図鑑など、その種類も多岐にわたっていました。

 そうした読書風景の中で、ひときわ私の目に留まったのは、久しぶりに登校してきたAさんがゲームの本を読んでいる姿でした。普段から自宅でよくゲームをしていたAさんは、大好きなゲームの本を学校で読める「自由読書」に興味を持ち、それが久しぶりに登校するきっかけにもなったのでした。私は以前から、マンガやゲームの本であっても、子どもに夢や希望を与えるものは良書であると考えてきました。そして、Aさんの姿を見ているうちに、私はあることをひらめいたのです。

 翌日、「朝の自由読書」の時間が始まる前に、私は子どもたちにこう語りかけました。

 「ゲームの中には、ワープして別の場所へ瞬時に移動するものがありますね。ゲームによっては、過去や未来の世界へ行くこともできます。本を読むこともワープと同じです。その場にいながら、知らなかった世界に触れたり、新しい世界を体験したりできます。また、歴史上の人物や世界各国の人々と出会うこともできます。そうした体験や出会いを通して、夢や希望が広がり、冒険心もかき立てられるのです。本を読むことで、みなさんは壮大な心の旅に出かけることができます。そして、その旅を通して、心はより豊かになっていくのです。本には、そんな力があるのですよ。」

 子どもたちは、真剣なまなざしで私の話を聞いていました。特に、ゲームの本を読んでいたAさんの嬉しそうな表情が、今でも印象に残っています。その後、Aさんは学校でも自分のペースで、ゲームの本だけでなく、文字を中心とした本にも少しずつ挑戦するようになりました。

 「朝の自由読書」が軌道に乗り始めて数か月がたった頃、休み時間に、子どもたちが互いの読んでいる本についてささやき合う姿が見られるようになりました。この様子を見て、子どもたちが本を読むことに少しずつ慣れ親しんでいることを実感しました。そして、心の中で思わず「やった!」と叫んだことを、今でも思い出します。

 実りの秋を迎え、柿の実も鮮やかに色づいています。子どもたちの心も、良書との出会いを重ねながら、豊かに育ってほしいと願っています。

~ 大人も、本を通して心を豊かにしたいと思う日 ~  (勝)

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