いよいよ教育現場は1学期末を迎え、日々とてもご多忙のことと思います。この時期になると、保護者懇談会での忘れられない光景が蘇ってきます。
それは、私が小学校6年生の担任をしていた時の、1学期末保護者懇談会でのことです。ある保護者の方との懇談時間になり、そこにお母さんとお父さんが揃って来られたのです。私にとっては初めてのケースであり、驚きとともに緊張したことが今でも思い出されます。
「お父さんも一緒に来られたのですね」
「はい。どうしても先生にお会いしたかったので、妻とともにやってきました。と言うのも、先生の歴史の授業内容を子どもから聞いて、たいへん興味深く感じ、先生と直接お話がしたいと思ったものですから。先生は歴史の出来事について、単に順を追って教えるのではなく、出来事にまつわるエピソードも織り交ぜているのですね。子どもたちが興味を持ち、関心を抱くように教えていただいたおかげで我が子も歴史が好きになりました。そのことにお礼を言いたくて、懇談会に来た次第です」
「そうですか。それは嬉しいです。ありがとうございます」
私は若い時から、先輩によく言われたことがあります。
─── “教師は授業で勝負する”という心構えを持って、毎日真剣に授業に臨むことだよ。子どもたちが、「明日もまた、先生の授業を受けたい」という気持ちになるような、わくわくドキドキするような創意工夫を図ることだよ ───
歴史の授業もそのような思いで、関連する資料を読み込んで臨んでいたのです。結果的に、保護者の方にも喜んでいただけたことを本当に嬉しく思いました。子どもがわくわくドキドキするような授業は、子どもを通して保護者へも伝わり、保護者とのつながりも生まれてくると感じたのです。
一方で、毎日の授業は満足できるものばかりではなかったのが現実です。“教師は授業で勝負する”といってもなかなか難しく、担任時代は反省ばかりしていました。例えば、私が意図した方向に引っ張っているだけなら、興味を示す一部の子どもには効果があっても、もはやすべての子どもにとって分かりやすいとは言えない授業でした。また、授業の中での話し合いが、よく発言する子と私との”1対1のキャッチボール”になってしまうと、子どもたちが相互で高め合うような本来の話し合いとはほど遠いものになってしまいました。
これらの担任時代の反省から、校長を務めた2つの小学校では、現代の教育実践者として著名な桂 聖先生(筑波大学附属小学校教諭)や森川正樹先生(関西学院初等部教諭)をお招きし、本校児童を相手に「師範授業」を行っていただきました。教職員の方々、とりわけ先生方に、直に“本物の授業”に触れて欲しいと思ったからです。
開催にあたっては、市内の小学校のみならず近隣の他府県の小学校や、保護者・地域の方々にも参加を呼び掛けました。そうしたところ、多くの方がお越しになられることになったので、講堂で開催することになりました。
両先生の「師範授業」は、子ども同士が対話を通して互いに高め合う、言わば子ども主体の授業でした。先生にとっても、子どもにとっても、この授業限りの“仮の担任”であったにもかかわらず、すべての子どもたちの可能性を拓くような見事な授業でした。そして、参加者が“本物の授業”に触れることができた喜びや感動が、会場いっぱいに広がりました。私の胸中にも、涙が流れるほどの喜びと感動が溢れてきました。
終了後、何人かの地域の方が私のもとへ来られ、奇しくも同じような言葉をかけられたことを今でも覚えています。
「校長先生、今日は素晴らしい授業を見せていただき感動しました。目から鱗が落ちました。ありがとうございました」
私はこの言葉を聞き、“本物の授業”は子どもだけでなく、保護者・地域の方々にも感動を与えるのだと痛感しました。そして、地域とのつながりをも生み出すのだとしみじみと思ったのです。
予測不可能な時代を生きていく子どもたちに、未来を切り拓く力をつけることが求められている今、子ども・保護者・地域の方々に感動を与える授業づくりに邁進したいものです。
ハスの花が咲く頃になりました。ハスは、泥水を吸い上げながらも美しい花を咲かせます。いや、泥水だからこそ美しい花が咲くと言えるのではないでしょうか。混迷の時代にあっても、未来を切り拓いて希望の花を咲かせゆく、子どもたちの雄姿と重なって見えてきます。
~ 「教職員の皆さま、1学期、本当にご苦労様でした」との心境になる日 ~ (勝)
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