宇宙から眺めた地球

 日に日に秋が深まり、夜空の星がいっそう美しく見える季節となりました。星の輝きを目にすると、私はある出来事を思い出します。それは、小学校長を務めていた頃、6年生のプラネタリウム見学に付き添ったときのことです。

 ドーム内の照明が落ち、季節ごとの星空や天体が映し出されると、まるで本物の宇宙空間に身を置いているようでした。私は大人でありながら、子どもたちと同じように驚きと感動を覚えました。上映が終わってドーム内が明るくなると、さまざまな表情をした子どもの姿が見えました。学んだことに満足していた子、初めての体験に目を輝かせていた子、そして、暗さに誘われて眠ってしまった子までいました。そんな中、日ごろは物静かな一人の子が私に駆け寄り、興奮気味に言いました。

 「校長先生、おもしろかったです。宇宙はすごいですね!」

 私は「何がすごいの?」と聞き返そうとしましたが、胸の内にとどめました。なぜなら、この短いひと言の中に、言葉では尽くせないほどの感動と旺盛な好奇心があふれており、私の問いかけでその思いが消えてしまうのではないかと感じたからです。

 後日、児童朝会で、この時に感じたことを全校の子どもたちに話しました。卒業を間近に控えた6年生への贈る言葉にしたい。そして、あの時「宇宙はすごいですね!」と語った子へのお返しの言葉にもしたい。そんな思いを込めて語りかけました。

 「みなさん、おはようございます。今日は、6年生の社会見学でプラネタリウムに行った時のことをお話しします。低学年の皆さんにはちょっと難しいかもしれませんが、最後まで聞いてくださいね。プラネタリウムでは、いつでも春夏秋冬の星を眺めることができるのです。そこでは映像を通して、星の美しさや宇宙の不思議さを感じることができます。宇宙は、まだまだ分からないことがいっぱいあります。とても興味深い、未知の世界です。けれど私たちは、その広大な宇宙の中の一つの星である地球に暮らしているのです。宇宙から見た地球には、国と国との境目、つまり国境という線はありません。世界の人々は、同じ地球という“星”で共に生きているのです。みなさんは若い。どうか将来、ぜひ宇宙へ飛び出してほしいと思います。そして、真っ暗な宇宙の中で、青く光る美しい地球という“星”を、自分の眼で眺めてほしいと願います。たとえ、実際に行けなくても、宇宙から地球を眺めている想像力を、持ち続けてください。その想像力があれば、今、世界で起きている戦争や争いもなくなり、同じ星で暮らす仲間として互いに認め合える、心豊かな世界になると信じます。みなさんの力で、平和な地球にしてほしいと、強く願っています」

 私自身、もちろん宇宙へ行ったことはありません。しかし、“宇宙から地球を眺める想像力”を養うために、自らの内面を深めてきました。そして、その想像力を確かなものにしてくれたのが、作家・立花隆氏の『宇宙からの帰還』です。実際に宇宙から地球を見た12名の宇宙飛行士たちの、貴重かつ極めて特異な実体験を、インタビューを通じて鮮やかに描き出した、立花氏の代表作です。

 その中から、「人間はみな同じ地球人」であることと、「地球の美しさ」について述べた2人の宇宙飛行士の言葉を紹介します。

 「私は、宇宙飛行士は自分たちが宇宙で得た新しいヴィジョン、新しい世界認識を全人類にわかち与えるべき責任があると思う。我々が宇宙から見た地球のイメージ、全人類共有の宇宙船地球号の真の姿を伝え、人間精神をより高次の段階に導いていかねば、地球号を操縦しそこなって、人類は滅んでいく。人間はみな同じ地球人なんだ。国がちがい、種族がちがい、肌の色がちがっていようと、みな同じ地球人なんだ」(注1)

 「宇宙から地球を見るとき、そのあまりの美しさにうたれる。こんな美しいものが、偶然の産物として生まれるはずがない。ある日ある時、偶然ぶつかった素粒子と素粒子が結合して、偶然こういうものができたなどということは、絶対に信じられない。地球はそれほど美しい」(注2)

 “かけがえのない命の宝庫・地球”、“宇宙のオアシス・地球”という思いを、子どもたちが抱き続けてくれることを心から願います。

 美しく秋色に染まる今日この頃。私たち大人も、さまざまなちがいを越えて、互いに認め合える心に染め上げたいものです。

 ~ 深まる秋とともに、自らの心も深めたいと思う日 ~  (勝)

(注1)「宇宙からの帰還」 立花 隆 著、中央公論新社、1985年7月初版発行、2024年5月改版7刷発行、155頁から引用。
(注2)同282頁から引用。

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