3月は、卒業式や入学式の準備、年度の総仕上げなどが重なり、教育現場にとって一年で最も忙しい時期です。
それは、私が小学校の教頭として多忙な校務に追われていた3月初旬のことです。夜遅くに仕事を終え、終電近くの電車で帰宅する途中でした。あまりにも疲れていたせいか、心地よい揺れに誘われて、つい車内で眠ってしまいました。それでも頭の中では、さまざまな仕事上の課題がぐるぐると巡っていました。そんなとき、私の降りる駅に着いたことを知らせる車内アナウンスが聞こえ、思わず目を覚まし、慌ててホームに降りました。その瞬間、自分のカバンを持っていないことに気づきました。荷物棚に置き忘れてしまったのです。思いがけない事態に、頭の中は一気にパニックに陥りました。
ともかく落ち着こうと自分に言い聞かせ、まずは駅員の方に事情を説明しました。すると、すぐに連絡を取ってくださり、カバンが見つかれば保管してもらえるよう手配してくださいました。ただ、困ったことに保管場所は終着駅でした。そこまでは、私が乗っていた快速電車で20分弱かかる距離。しかも、乗っていたのが終着駅まで向かう最終だったので、電車で追いかけることはできませんでした。私は仕方なく、タクシーで向かうことにしました。とにかく、カバンが無事であることを祈るばかりでした。深夜の道を走り抜け、ようやく終着駅に到着し、無事にカバンが私の手元に戻ったのは、深夜0時半を過ぎた頃でした。駅の方には丁寧にお礼を述べ、再びタクシーに乗って帰宅しました。
数日後、日頃からご指導いただいている小学校の校長先生に、今回のことについてお話しました。
── ともかく、無事にカバンが戻ってきたのは良かったよ。しかし、よく考えてごらん。子どもや教職員の重要な情報は職場に保管してあるとはいえ、君のカバンの中にもさまざまな情報が入っていたはずだ。もし戻ってこなかったら、どうなっていただろうか。
── 管理職という立場上、被害は君個人にとどまらず、子どもや教職員にも影響が及ぶ恐れがある。管理職とは本来、子どもや教職員の安全を守り、支えるとともに、彼らの可能性を広げるために、人の成長を軸に据えた運営を担う役職だよ。
── 今回の過ちを決して忘れず、むしろこれを契機として、管理職としての自覚と責任をしっかりと身に染み込ませることだよ。いずれ君も校長になるだろう。その日のためにも、今回の失敗を糧に、校長としての心構えを今のうちから育んでおくことが大切だよ。
厳しくもあたたかな指導を受け、私は深く考えました。
── 日々追い込まれるような状況の中で、管理職として大切なことを見失いかけていた。子どもや教職員の安全を守り、支え、その可能性を広げていくことこそが、自分に与えられた責務だ。
そう思うと、今の立場の尊さと責任の重さが胸に広がりました。同時に、こうして導いていただけることへの感謝の気持ちが込み上げてきました。
校長先生のご指導を受けた帰り道、学校近くの公園を歩いていると、早くも桜が咲き始めていました。厳しい冬を乗り越え、春はすぐそこまで来ているようでした。
~ 旅立ちの春に、歩み出す日 ~ (勝)

