光と心

 突然ですが、クイズです。「世の中で、最もスピードが速いものは何でしょうか」 ─── これは、私が校長を務めていた小学校の児童朝会(以下、「朝会」)で、子どもたちに投げかけた言葉です。

 ほとんどの教育現場では、毎週の月曜日に朝会が行われます(今は、コロナ禍のため、オンラインによって行われていますが)。週始めの朝ともあって、子どもたちのテンションは極めて低いです。特に、猛暑の夏や厳寒の冬は、なおさらです。そのために、朝会で子どもたちが興味・関心を示し、集中して聴くためには、どんな話がいいかを常に考えたものです。そのうえ、小学校の場合は、1年生から6年生までが対象になり、年齢幅が6歳もあるのです。従って、どの学年に焦点をあてて話すのかも重要になります。
 朝会で私が心掛けたのは次の3つです。1つ目は、子どもたちに “語りかけるように話す”ことです。朝礼台の上から話をするため、子どもたちにとっては、ともすれば威圧的な感じになりがちです。そのため、一人ひとりの顔を見ながら、“語りかけるように話す”ことにしたのです。2つ目は、話の内容を“中学年(3・4年)に絞る”ことでした。低学年に合わせると高学年が退屈になります。逆に、高学年を基準にすると低学年には理解できなくなるためです。3つ目は、話を“3分程度にまとめて話す”ことです。子どもたちは休憩時間になると、私の近くに寄ってきてよく言いました。「校長先生の話は長いよ、今度は短くしてね」と。その言葉をいつも念頭に置いて、長からず短からずの3分で話すことを心掛けたのです。朝会を“たかが3分、されど3分”と捉えて臨んだのです。
 劇作家の井上ひさし氏は、「難しいことを易しく、易しいことをふかく、ふかいことをおもしろく」(注1)という名言を残していますが、“たかが3分、されど3分”の私の心境とぴったりと合う言葉でした。

 冒頭のクイズに戻ります。高学年からは、やはり「それは、光や!」「光です!」という声があがりました。このように子どもたちから声があがってくれば、朝礼台の上からの話であっても、威圧的にはならずに子どもたちと言葉を交わしながらの話になります。
 「いや、光ではありません。答えは心です。」「遠くに離れていても、心は瞬間に通じ合うのです。電話やメールもすぐに相手に気持ちを伝えますが、心はもっと速いのです。」「また、光はあたたかさを届けますが、辛く暗い気持ちを明るくするのは心です。」「さらに、光はエネルギーを生みますが、元気がなく学校へ行くのがいやな時にも、前向きな気持ちにするエネルギーを与えてくれるのは心です。」「心というのは不思議ですね。目には見えないけれど、すごい力があるんだね。そして、皆さんはだれでもその心を持っているのですよ。すごいですね。だから皆さんは、一人ひとりかけがえがなく尊いのですよ。“私なんかだめだ”と思わないで自信を持ってくださいね。」「ちょっと、低学年の人には、難しい話になりましたが、この後、教室へ帰ったなら、担任の先生から詳しく話を聞いてね。」と語り、話を終えました。
 朝会後に各教室へ戻っても、その話題を学級の実態に応じて、各担任と子どもたちがさらに内容を深めることができれば、学校全体が“共通の話題”で同じ方向へ進んでいくことができると思っていました。“たかが朝会の話、されど朝会の話”になればとの思いで、毎週の朝会に臨んだものです。

 さて、新型コロナの変異株の蔓延で、教育現場はより一層厳しい状況になっています。今後も身体的な距離を保つことに、より一層注意しての学校生活を送る必要があります。ただ、身体的な距離を保つことが必要であるからこそ、より一層、心と心のへだたりはあってはならないと思うのです。このような状況だからこそ、心と心を結び合うことのすばらしさ、心が通じ合う喜びを、実感してほしいと願います。

光と心

 一方で、心はこわれやすく、デリケートなものでもあります。子どもたちにとっては環境の変化が大きい新年度が始まって1ヶ月が経ちました。心身共に疲れが出やすい時期でもあります。その上、制約が多い今の状況ではなおさらでしょう。我々大人は、そんなデリケートな子どもたちの心に寄り添い、サポートしていくことを、今もっともすべきことと思えてなりません。子どもたちの“つぶやき” をしっかりと聴き、“SОS” を確実に受け止めたいものです。

 ~ “強く優しく大きな心になれ!”と願う「こどもの日」 ~  (勝)

(注1)福島大学附属図書館報 「書燈」 No.45、2010年10月1日発行、3頁より引用。

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